hiro-nakayamaの日記

日暮れまでには、まだ時間がある。

■「時代遅れの酒場」が流れていた頃。

田舎町のそのBARは、港からの坂道の途中にあった。

建物の軋む階段を登った2階のドアを潜ると、

20人は座れそうな、カウンター廻りの広さからして、

以前は、若いバーテンさんとかがいて、

しかしその若者も、きっと都会へいってしまって。

いまでは、ママひとり、水割りとかをつくっていた。

 

棚を見ると、モルトウイスキーとかいっても、

ニッカの「北海道」だけだ。

迷い込んだ、閑古鳥のカウンターで、昆布とか齧りながら、

その「北海道」をグラスにころがしていると、

町では見かけない風体が、気になってか、

――どちらから・・・。

と控えめな独り言のように、ママが言った。

――さあ、この辺りでは、見掛けないよね。

――わかった。北海道ではないんでしょ。

――なんで。

――コトバがちょっとちがう。

――そうか、よく判るね。

・・・思えばオレも、あの町この町、歩いたものだ。

――ママも、この辺りの方ではないんでしょ。

――なんで。

――コトバがちょっとちがう。

――わかる・・・。

 

一瞬、合った視線を逸らす横顔が、美しいと思ったから、

オレも目を逸らせて、そのまま窓の外に、

オホーツクの海を探した。

でも窓には、さいはての夜の闇が拡がっているばかりだった。