田舎町のそのBARは、港からの坂道の途中にあった。
建物の軋む階段を登った2階のドアを潜ると、
20人は座れそうな、カウンター廻りの広さからして、
以前は、若いバーテンさんとかがいて、
しかしその若者も、きっと都会へいってしまって。
いまでは、ママひとり、水割りとかをつくっていた。
ニッカの「北海道」だけだ。
迷い込んだ、閑古鳥のカウンターで、昆布とか齧りながら、
その「北海道」をグラスにころがしていると、
町では見かけない風体が、気になってか、
――どちらから・・・。
と控えめな独り言のように、ママが言った。
――さあ、この辺りでは、見掛けないよね。
――わかった。北海道ではないんでしょ。
――なんで。
――コトバがちょっとちがう。
――そうか、よく判るね。
・・・思えばオレも、あの町この町、歩いたものだ。
――ママも、この辺りの方ではないんでしょ。
――なんで。
――コトバがちょっとちがう。
――わかる・・・。
一瞬、合った視線を逸らす横顔が、美しいと思ったから、
オレも目を逸らせて、そのまま窓の外に、
オホーツクの海を探した。
でも窓には、さいはての夜の闇が拡がっているばかりだった。